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August 16, 2014

「渋沢栄一の経営教室 Sクラス」香取俊介・田中渉

坂本龍馬の行動力と外交センスを持ち、
西郷隆盛の人望と度胸で人を惹き付け、
岩崎弥太郎と富の独占についてガチンコで戦いつづけ一歩も退かなかった“あの人"と
僕は出会った。
人生の宝物となる、渋沢栄一と僕の奇跡の物語。

『それは夢だったのかもしれない。
まぼろしだったのかもしれない。
ありえない、ただの妄想だと、誰かが言うかもしれない。
でも、僕にとっては、かけがいのない経験だった。
本物の出会いだった。
辛かったけど、輝いていた。
不安でいっぱいだったけど、熱くなれた。
いま、こうしていると、わかる。
“あの人"が時を超えて僕らに、たいせつな事を教えようとしていたことが。
そして、あの不思議な出来事も、悩み苦しみながら必死で夢に挑戦したことも、
仲間との出会いや、大切な人たちとの別れすらも、すべてが「学び」だった。
そうなんだ僕らは、渋沢栄一の教室「Sクラス」で学んだ子供たちだったんだと』

2058年 帝国ホテルでのパーティのシーンから。
主役は大河原渋。16歳で起業をし、先週で200社目の会社を立ち上げた人物である。

この本、前半では、渋が幕末にタイムスリップして、3本足の八咫烏になり、渋沢栄一のそばでその考えを学び、行動を目の当たりにする。
後半は、現世に戻った渋が、渋沢栄一から直に学んだ「シブサワ・スピリッツ」を胸に、定時制高校の同級生2人と一緒に会社(昭和30年代のイメージで、エコとヘルスを柱にした食堂)を立ち上げていくアレコレ。。。
そんな構成で成り立っている。さらに、巻末には、「S-Class Note」。本編で語られている渋沢栄一の言葉をまとめている。

「論語と算盤」などを読んだことはあるが、こうやって、現実の起業にあてはめていくと本当にわかりやすい。前半は、渋沢栄一のスピリットと歴史が分かる、いわば「理論編」。後半は、現実の(山あり谷あり喜びありやりがいありトラブルたくさんあり・・・の)起業の現実にあてはめた、「実践編」だ。苦境のときこそ「S-Class Note」の存在が光り輝く。

タイムスリップをして、八咫烏になって、渋沢栄一のまさに懐に入って「直に学んだ」という設定がおもしろいし、その後の起業のストーリーも、あえて時代の普遍性が高い「食堂」にしているとことも、なるほどな・・・という印象。・・・ITとかにしないところが!
そして、最後の最後に「情(愛情?)」の話しになるところ、これは賛否あるかもしれないが、ワタシは好きかも。

起業をする16歳の3人は、どちらかというと恵まれない環境の中で定時制高校に通学しているが、前向きで明るい。なんだか、あっけらかんとしている印象もある。
エリートを主人公たちにもってこなかったところも、多くの読者に共感してもらえるポイントなんだろう。天の上の渋沢栄一(シブジイと呼ばれている)が、ついつい応援したくなってしまう気持ちもわかる。

渋沢栄一の成し遂げてきたことと、起業に必要な本質的なポイントが、「わかりやすく」「軽やかに」伝わってくる楽しい本。オススメ。

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August 10, 2014

「春を背負って」笹本稜平

長嶺亨は脱サラをして父親の山小屋を継いだ。父をなくしたOL、84歳のクライマー、7歳の女の子、ホームレスのゴロさん…美しい自然に囲まれたこの山小屋には、悩める人を再生する不思議な力があった。傑作山岳小説『還るべき場所』の作者が描く登山の魅力。

職場は夏休み・・・。
家族と友人と、旅行やグルメなどをエンジョイしている皆さんを少々羨ましく思いつつも、映画鑑賞と読書に浸る、ある意味贅沢な時間。
まずは、山小屋を舞台にして、松山ケンイチ主演で映画化もされたというこの本から。

不慮の事故で突然父親を亡くし、その父親の生きがいであった山小屋を脱サラして継ぐことになった主人公、亨。
父の旧知の間柄であり、ホームレスで山のプロフェッショナルのゴロさん、自殺願望のところを助けられた美由紀、そのほか、さまざまな人との出会いが山(と山小屋)にあり、物語が展開されていく。

ところで、最近は山を舞台にした小説が流行なのかな?
湊かなえの「山女日記」とか北村薫の「八月の六日間」とか・・・。
この本の解説のどこかにも書いてあったが、「山は悩める人々を再生する不思議な力がある」とか??

少なくとも、ストーリーを読み進めるうちに、主人公の亨が(山小屋を営む中で)自分の人生を再生をしていく姿は、鮮やかにみえてくる。

そう、「脱サラ」といっても、きっかけは挫折だったのだ。メーカーで新技術の開発者として研究に打ち込み、輝かしい成果も出していたはずなのに。
そのくだりは、この本の最初の方に、それまでの父との少し距離を置いていた関係とともに描かれている。

会社やら学会やらという他人の褌で相撲をとり、その価値を決めるのも他人の尺度によるしかない。本当の意味での亨の喜びはそこにはない。
しかし、父の場合は違っていた。その夢は心の中で完結するものだった。他人がどう評価するかなど眼中にはなかっただろう。それは夢というより、生きる喜びの源泉とでもいうべきもののはずだった。

実は、私、この部分をちらっと立ち読みして、すごく共感して手に取ったという・・・。
まあ、それはともかく、読後感がとてもさわやかな本。オススメ。

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