「ちょんまげぷりん」
「ちょんまげぷりん」
荒木源著 小学館
【出版社による紹介より】
シングルマザーの遊佐ひろ子は、お侍の格好をした謎の男と遭遇する。男は180年前の江戸時代からやってきたお侍で、木島安兵衛と名乗った。半信半疑のうちにも情が移り、ひろ子は安兵衛を家に置くことに。安兵衛も恩義を感じて、家事の手伝いなどを申し出る。
その所作は見事なもので、炊事・洗濯・家事などすべて完璧。仕事で疲れて家に帰ってくるひろ子にとって、それは理想の「主夫」であることに気づく。
安兵衛は料理のレパートリーを増やし、菓子づくりに挑戦。これが評判を呼び、「ござる」口調の天才パティシエとして時の人となるが――。
もともとは「ふしぎの国の安兵衛」というタイトルで書かれていた本。今夏の映画化(錦戸亮君が主演らしい)にあわせて改題・文庫化されたとか。。。
タイムスリップをテーマにしたファンタジーだが、単にそれで終わる話しではなく。
育児も含む家事の分担や、勤め(働くこと)の喜び・認められる喜びに目覚めるということ・・・など、現代に生きるワタシたちが日々抱えるテーマについて、いろいろと考えさせられる。
スーパー完璧主夫となった安兵衛の存在のおかげで、ひろ子は仕事に集中でき、息子である友也も精神的に安定・成長し、みんなまるく収まると思いきや・・・。そうはうまくいかないのが家族の関係というものだ。
はじめは家事の一つとして取り組んでいた菓子づくりが評判をよび、安兵衛は、仕事用に六本木ヒルズに部屋を借りるほどの有名パティシエとなる。働くことのやりがいを感じ、「人に認められる」という達成感を得た安兵衛と、ひろ子たちとの間には溝ができてしまう。そして、友也の心も不安定となる。
安兵衛が主夫となって、「ああよかったね。3人で仲良く暮らしていくのね。」というところで話しが終わらなかったのが、リアリティがあってよかった。
どんなにうまくいっているように見えても、主婦には主婦の、主夫には主夫の、葛藤や満たされない想いがあるはず。「江戸時代からやってきた、スーパー主夫誕生!」でめでたしめでたし・・では、(がんばっていることはもちろん分かるが)あまりにもひろ子の思うままだ。
最後にさらなるどんでん返しがあり、物語は終結する。
ひろ子が、今後の仕事のしかたも含めた決断をしたときの文章が印象的だった。
これで本当によかったのかどうかは分からない。しかし、安兵衛がいてもいなくても、ベストのやり方をいつも探ってゆくしかないことに変わりはない。自分に言い聞かせるのは「焦らずに」、それだけだ。
そんなつもりで読んだのではなかったが、意外にも「生き方」「働き方」について考えさせられる本。おススメ。
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